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正の注目、負の注目とは?
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(小林)
前回に引き続き、今日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。
さて、前回お話しいただいた中で、どろんこ幼稚園というのが出てきました。
(小倉)
森の幼稚園ピッコロですね!
このあいだ体験講座のようなもの、やってましたよ。
(小林)
こういう幼稚園を実践されている方ってすごいですね。
みんな理屈ではわかっていても、つい父母向けの商売性のあるものを優先してしまうものじゃないですか。
わかる人だけ来てくださいというような、顧客をセグメントして、それで成り立っていくわけだから、すごいなあって。
――――むしろブレたらご父母からお叱りがあったという話もありましたね。
(小倉)
そうそう、それもすごいですよね。
――――顧客が信じてる、信じ切っているということは理想的ですね。
(小林)
そう、前回の小倉さんの言葉の中で、「子供がとっくみあいのケンカをしてもほっとく。」
ずっと見守って、ケガとかしても。
自分たちで気づいていくのが感動的で。
子供って、ケンカしたり、そういうのって自然な姿じゃないですか。
それを全部止めてしまって、何もなかったかのような感じで育てていくのってあまり良くないですよね。
だからうちも家でケンカが起こると外でケンカしなさいって言ったりするんです。
(小倉)
子供がケンカするのも含めて、親へのアピールとか、アドラーで言うところの「対人関係論」ですから。
要は人からどう見られるとか人の注目を浴びるとか自分が強いぞってアピールすることがメインの目的ですから、オーディエンス=観客がいないとやめるんですよね。
バカバカしくて。
(小林)
やる気も起こらないと。
(小倉)
そう。ケンカも結局は観客に見せているんですよ。
「オレは強いぞ!」ってやっているから、観客がいなくなったらバカバカしくてやめるんですよね。
それを「やめなさい!」って止めるとよけい喜んじゃうってのがあるから。
二重の意味で「気づき」を失う。
それと、我々が止めたり、騒いだり、叱ったりすることで余計助長してるってこともあるんですよね。
(小林)
子供ってこう、注意したり何かすると逆にエスカレートするじゃないですか。
(小倉)
それを心理学では「注目した行動は増える」っていいます。
だから悪いところに注目すると悪い行動が増える。
(小林)
「負の注目」っていいますよね。
(小倉)
そうですね。
駄々をこねて騒いで泣きわめいたら「やめなさい!」と言ってそこに注目するとその行動は増える。もっとやるようになる。
なぜかというと、目的を達しているからですよね。
駄々をこねて、親に「自分は不満であるんだ」というアピールをして、それに親はまんまとはまって。
「やめなさい!」と叱った瞬間、「いただき!」っていう・・・。
むしろ喜び。
そういうときは知らん顔してスタスタ歩いてほっとけば、バカバカしくてやらなくなる。
(小林)
そうですね。
おもちゃ売場で駄々をこねて泣く子がいるじゃないですか。
あれもそういうことですよ。
「先行ってるからねー。」
って行っちゃうと、バカらしくなっちゃうんですよね。
(小倉)
観客がいないとやらないですからね。
(小林)
結局、全ての行動には意図・意味があって、目的がある。
それにまんまと振り回されちゃう子育てから脱却していくと、たぶん、親御さんも楽になるはずですよね。
――――今の例でいうと、その子の目的は「注目を集めること」ですか?
(小倉)
そうですね。
(小林)
困らせてやろうという場合もあるだろうし。
「負の注目」に大人が注目するとその行動が増えるんですよね?
(小倉)
それそれ。
だからその時はどうするかというと、頻度が少なくても、割合が少なくても「正の注目」をすることなので、いい子におとなしくしてニコニコ笑っているときに「あら楽しそうねー。」とか、「そうやって機嫌よくされてるとお母さんも楽しいなー。」と言うと、そっちが増えるんですよね。
でも私達(大人)は普通に(子どもが)ニコニコ笑って歩いているのは当たり前だから、わざわざ褒める必要はないってことで注目しないのです。
当たり前のことに対しても注目して認める。
(小林)
意外と大人が思っている子供のマイナス部分って、2~3割しかないんだよって話をよく聞いたりします。
(小倉)
なるほどね。
(小林)
だけど、その2~3割に注目するから、すごく拡大されて。
親とか教師とかはそこばかり責めるので。
(小倉)
子供は劣等感を持ちますよね。
「自分はダメだ」と思いますよね。
(小林)
当たり前のことに注目して、そこを褒めてあげたりすると、意外と子供って嬉しいから。
塾でいうと、スタッフに「当たり前のことを褒めるようにしようよ。」って。
宿題をしてこなかった事を叱るのではなくて、やってきた事を褒めたり・・・。
(小倉)
「やろうとしたこと」を褒めたり。
「やりかけたこと」を認めたり。
だから70点取ったとき、普通は「30点何でできなかったの?」とか言うけど、
「70点もできてるね」
っていうことが先なんですよね。
(小林)
そうですね。
「7割もわかったんじゃん。」というようなアプローチ。
これは親御さんもすごい大事だと思います。
塾の保護者会で、数学の苦手な子が4割しか取れなかったとき、それでも「4割も取れたんだ!」と言ってあげてくださいと伝えたんです。
親御さんは「そんなこと言えないよ、先生・・・。」って(笑)。
「だって、半分もいってないんだよ、ウチの子・・・。」って(笑)。
でも、そういうアプローチが大事。
――――親は、そう言われれば理屈はわかるのかなと。ただ、なかなか、「そうはいってもね、先生・・・」というのが大半かと思うのですが。
(小林)
うん、現実はそうですね。
そういう親御さんは、親御さん自身が劣等コンプレックスを持っている場合があるんです。
僕の主観かもしれないけど。
自分の人生のやり直しをお子さんに託すみたいな。
「◯◯ちゃんはすごいのね。」と言われたいみたいで。
――――そういうことを親に気づいてもらうにはどうしたらいいんでしょう。
(小倉)
私は気づかせなくていいと思っているんですね。
結局、アドラー心理学を親御さん自身が意識して体現していかないと気付けないんですよね。
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「石の上にも三年」と「草食系男子」や「マイルドヤンキー」
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(小林)
日経ビジネスの記事で、「新卒と同時に入社してそのまま3年間辞めずに働いた人は、大学進学者の3割しかいない」とありました。(2014年3月の記事)
世の中で言われているような、会社側の問題もあるかもしれないけれど、それにしてもこの割合は少ないんじゃないの?と、この対談の前に話していたんです。
―――――可愛いから、大切に育てすぎてわがままな子を輩出しているような気がしてならないという主観的な話をしていたんです。
(小倉)
アドラーでいう「甘やかし」ですよね。
(小林)
甘やかしですよね。
他人の価値観に合わせられる面も持ってないと、こういうことが起こりませんか?
(小倉)
起こりうるでしょうね。
まあ、データを知らないので、それは我々のいた10年前、20年前はどうだったかというのがよく分からないんですけど。まあ直感で見れば少ないなって思いますよね。
もうちょっと(辞めずに)いたような気がする。
だからそれは甘やかされて、我慢・辛抱を知らずに育った人が増えているような気がしますね。
もしくは、我々の親世代が我慢・辛抱できなくなってるから、子供は更にひどくなっているという気がしますけどね。
(小林)
たぶん親もあまり無理すんなっていうメッセージを子供に送っちゃうような気がするんですよね。
「石の上にも三年」なんてたぶん死語ですよ。
(小倉)
親自身ができないからね。
(小林)
そうなんですよ、きっと。
(小倉)
だからどうしても「新しい」「古い」っていう価値観で見ちゃうんだよね。
つまり、「石の上にも三年は古い」と。
古さ・新しさ関係なく、ある意味真実が含まれているのに古い、新しいっていうふるいをかけちゃうから。
だからみんな分からなくなっちゃうんでしょうね。
(小林)
そうですね。
何でも「今っぽい」とか「今っぽくない」とかで判断する傾向がありますよね。
(小倉)
ありますよね。
だから、それこそ「あらゆる能力の中で最も大切な能力は努力する能力である。」って、これ誰の言葉だったかよく覚えてないんですけども・・・。
言葉を変えると、「根気」だったり、それこそ「辛抱」だったりとか、「頑張り」だったりとか。
その能力を身につけられれば、たぶんどんな商売だろうが、どんな仕事だろうが、それなりに大成すると思うんですよね。
(小林)
そうですね。
(小倉)
ベタな例えですけど、「イチローの能力で一番秀でている能力は努力する能力である。」
誰よりも努力する。
そりゃあ世界一になるわなあ、というね。
いろいろ有りますよね、このバージョンは。
一番大事な能力は何?っていうと、「努力する能力」だとか「素直力」とか。
人のいうことをそのまま受け取って、そのままやってみるという「素直力」だったりとか、「感謝力」。感謝する力とか。
その辺は昔と変わってないんだと思うんですけどね。
(小林)
そうですね。
(小倉)
それを古くさいって言っちゃうんですよね。
じゃあ、努力しないで、一切感謝しないで「ありがとう」って言わないで、人の話を聞かないで違うでしょって言ってる人が果たして成功するか?って、ありえないですよね。どの時代でも。
(小林)
それは勉強でも、運動でも、職業でも全く一緒だと思います。
イチローの話が出ましたけど、彼の名言であったじゃないですか。
(小倉)
そう、「とんでもないところに辿り着く、ただひとつの道。小さなことからコツコツと。」ですよね。
(小林)
これを続けること。
(小倉)
当たり前のことをやることですよね。
なのに、それを親が古くさいって言っちゃって、親自身が分かってない。
(小林)
そうか、20代の子の親は僕達40代・・・。
私は46なんですけど、同級生の子供が大学生になったりしているから。
40代後半から50代くらいの方々のお子さんが社会に出るようになっているわけですよね。
――――私は現在45歳で、私より上の世代がバブル世代と言われたようですが、「就職決まれば会社に車を買ってもらえた」という同じ大学の先輩達の話を聞いていて、就職っていいなと思っていましたが・・・。
(小倉)
内定取ったら海外旅行だったから。
――――45~50歳くらいの世代の方々の子供がそろそろ社会に出る頃かなと捉えています。そしてあと10年すると「失われた世代」の、就職氷河期の世代の方々の子供が社会に出る。すると、その頃はまた変わっていくのではないかと。むしろ極端に現実的な世代、厳しい目を持った人たちが就職するようになってくるのかなと思っているんですが、どうですか?
(小倉)
就職氷河期以降の世代って、古い言葉ですけど「草食男子」が今だと40歳に手が届くくらいになってきて。
取材をよく受けるんですけど、なぜ今アドラー心理学が受けてるのかという話を聞かれて。
それって、草食化みたいになってるから。
つまり今の人達ってそれこそ「車いらない」「ブランドいらない」「彼女もいらない」。
「ブランド品ダセえ」って。
「車?バカじゃないの。そんなのにお金使って。」
「彼女に会うくらいならネット見てればいいじゃん。」って。
(小林)
それって本当なんですよね。
マスコミが書いてるだけじゃなくて。
(小倉)
本当なんですよね。
なぜだと思います?
(小林)
なぜ?
――――なるべくリスクを取りたくない、リスクを回避する、あるいは・・・傷つくことが怖い。
(小倉)
そのとおりだと思いますね。傷つくのが嫌だと思ってるんだと私は思っているんですよ。
だから「ブランド品欲しい」と言って買えなかったらカッコ悪いし、みんながブランド品ブランド品って言ってる時に自分だけ買えなかったら落ち込むけど、「バカじゃないの」と言っておけば持ってない方が偉いですから。傷つかないし。
彼女とかもまさにそうで、人と付き合うって凄い我慢とか、傷ついたりとか失恋したり、もしくは告白してフラレたりとか付き物ですけど、傷つきたくなければ「彼女なんかいらないよ。」って言ってるほうが楽なんで。
逃避ですよ、完全に。
だから今、「ブランド品から逃避」、「金持ちから逃避」、「役職なんかヤダ」、「課長なんかになるの恥ずかしい」ってのも、なりたくてなれなかったらカッコ悪いから。
全部逃避ですよね。
(小林)
ほー。
(小倉)
「傷つきたくない症候群」なんですよね、今って。
(小林)
そういう傾向があるってことなんですね。
(小倉)
それをアドラー的に言えば、「勇気がない。」ってこと。
勇気があれば、傷ついて失敗しても、何回失敗してもうまくいくよって思える人は勇気がある人達で。
なんか「勇気がない時代」ですよね。
だからアドラー心理学なんだと思うんです。
(小林)
前回と繋がってきますね。
(小倉)
みんな傷つきたくない症候群なんで。
すごい悲しいなあと思う。
(小林)
悲しいですね。じゃあ、チャレンジングな人生を送ろうなんて、全く思わないんですね。
(小倉)
そう、真逆ですよね。
なるべく傷つかない、なるべく恥をかかない。
だから、友達と違うこと言ったら「おまえ、おもしろいやつだな。」とかじゃなくてイジメられたり、はじかれたりするから、なるべくみんなと同じことして目立たないようにするって。
つまんないねー。
さみしいなあ、と。
(小林)
草食男子って10年くらい前の言葉か。。。
10年くらい続いてるんですね。
(小倉)
「マイルドヤンキー」もね、ここ3年くらい。
結局あれも、高級な店じゃなくて、みんなでショッピングモールに行って、駐車場に車を停めて、一台に相乗りして。
――――そのほうがガソリン代かからないから。そこから出かけていくらしいのですが。
(小倉)
行動半径が中学・高校から半径何キロ以内。
(小林)
あー、あまり変わらないということですか。
(小倉)
そうです。
それでヤンキーみたいにみんなでつるんで遊ぶという。
だから会社帰りに飲むとかじゃなくて、地元の仲間とつるむ。やたらと学生時代の仲間と。
友達関係が学生時代から進歩してない。
(小林)
なるほど、地元の友達と、ってことですね。
(小倉)
友達関係を広げるってチャレンジですもんね。
いろんな人と付き合うって難しいですよね。
ですから、いろんな時代のキーワードを聞く度に「ああ、傷つきたくないんだろうな。」って。
(小林)
傷つきたくないがための逃避ってことですね。
(小倉)
時代がどんどんそっちに行ってる。
親が傷つかないようにと甘やかして、それで会社行ったら傷つくわけですよ。現実は。
そうしたら辞めちゃうわけですよね。
それで親も辞めていいよって言うし。
(小林)
無理すんなって言うしね・・・。
(小倉)
そうしたら親が会社に電話して、「ウチの子は会社辞めます。」って言うし。
(小林)
親が言う(笑)。
(小倉)
バカか?って話ですよね。
――――多いんですか?本当に。
(小倉)
聞きますよ。
最近も聞いた話で、30歳の女性が体調が悪くて会社休もうかというところで母親が「じゃあ私が電話してやろうか?」と。
いい歳した人が。母親は55歳くらいで。
たぶんずっとそうやって育ててきたんだろうなって思って。
(小林)
やってあげることがね。
(小倉)
愛だと思ってるんですよ。
(小林)
そう、与えることがね、愛だと思ってるんですよね。
お金にしても、行動にしても。
それをやんわり気づいて頂けるように・・・。
(小倉)
今甘やかすことではなくて、「将来、自分の足で立てるようにすること」って、ここだけはブレないようにすること。
アドラー心理学においても「子供はその体験から何を学ぶか」ということを繰り返し自問することですね。
たとえば、子供が会社を休むときに、親が代わって電話をしてあげた。
そうしたら子供はその体験から何を学ぶか。
困ったときには誰かが助けてくれると。
弱みを見せたらうまいこと会社をズル休みできるとか、そういうことを学んでしまう。
それを学んでほしいのかってことですものね。
(小林)
そういうことってなかなか伝わりにいくいですよね。
仕事って、自己成長の機会なんだよってことを言う前に、労働条件がなんだって方向にいくじゃないですか。
そういうのもちょっとね、残念な気がするんですよね。
――――実際、そんな悠長なことを言っていられない時代に入っていると思うのですが。
そんなに仕事を選んでる場合じゃないだろうと。
自分に合う、合わない別としてどんな業界でも自分でいったん入ったら三年は我慢すべきだと思うのですけど。
(小林)
ほんと、そうです。